東洋哲学

東洋哲学リーダー塾 メール講座 第43回——変化に強い組織の"芯"づくり:「不易」を掴んで「流行」を制す

変化に強い組織の”芯”づくり――「不易」を掴んで「流行」を制す

現代社会を形容する言葉として「VUCA(予測不能な時代)」という表現が定着して久しいですが、リーダーの皆様はその荒波の中で、どのように組織の舵取りをされているでしょうか。市場のルールが塗り替えられ、テクノロジーが既存のビジネスモデルを破壊する中、多くの組織が「柔軟性」や「適応力」を求めて奔走しています。しかし、東洋哲学の視点から見ると、真に柔軟であるためには、その中心に「決して揺るがない強固な芯」が不可欠であるという、一見逆説的な真理に突き当たります。

東洋思想では、物事を捉える際に「本(もと)」と「末(すえ)」という概念を非常に重視します。これは、植物に例えれば「根幹」と「枝葉」の関係です。風が吹けば枝葉はしなやかに揺れ動きますが、それは地中深く、どっしりと根を張った幹があるからこそ可能です。根が弱ければ、どれほどしなやかな枝を持っていても、強風一回で木全体が倒れてしまいます。

現代の組織運営において、この「本(根・芯)」にあたるものは何でしょうか。それは、組織の「理念」「使命(パーパス)」「譲れない価値観」です。一方で「末(枝葉)」にあたるものは、具体的な「事業施策」「最新ツール」「組織図の形」など、時代や環境に合わせて変えていくべき要素です。

多くのリーダーが陥りがちな罠は、この「本」と「末」を混同、あるいは逆転させてしまうことにあります。目先の利益や流行の経営手法といった「末」を最優先にし、肝心の「自分たちは何のために存在しているのか」という「本」を疎かにしてしまう。そうなると、組織は変化に翻弄され、ただ闇雲に右往左往するだけの集団になってしまいます。これは「柔軟」なのではなく、単に「芯が抜けている」状態です。

逆に、明確な「芯」がある組織は驚くほど強い。「私たちの使命はこれだ」という確固たる軸があれば、具体的なやり方は市場に合わせてどれほど変えても、組織としてのアイデンティティは失われません。むしろ、芯がしっかりしているからこそ、リーダーは安心して「現場の判断でやり方(枝葉)をどんどん変えていい」と権限を委譲できるのです。

芯をつくるということは、組織の中に「共通言語」を育てることでもあります。「迷ったら、あの理念に立ち返ろう」という絶対的な基準があることで、個々のメンバーは迷いなく、迅速に動くことができます。変化に強い組織とは、単にスピードが速い組織ではありません。「揺れながらも、必ず元の軸に戻ってくることができる復元力を持った組織」のことなのです。

リーダーの役割は、誰よりもその「本(芯)」を大切に守り、語り続けることです。枝葉を揺らす風に一喜一憂するのではなく、地中の根に水をやり、幹を太くすることに心血を注ぐ。その「静」の努力が、結果として組織に「動」の強さ、すなわち真の柔軟性をもたらすのです。

『大学』「物に本末あり、事に終始あり。先後する所を知れば、則ち道に近し」

「物に本末あり、事に終始あり。先後する所を知れば、則ち道に近し」

儒教の四書の一つである『大学』の冒頭近くに記された、極めて重要な一節です。「この世のあらゆる物事には、根本となるもの(本)と枝葉となるもの(末)がある。また、あらゆる事柄には始まり(始)と終わり(終)がある。何が先で、何が後か。その優先順位を正しく理解することこそが、物事の真理(道)に到達する唯一の方法である」という意味です。

ここでの「本」とは、前述の通り理念や徳といった内面的な根幹を指し、「末」とは目に見える成果や名声、利益などを指します。『大学』が私たちに突きつけている問いは、「あなたは、枝葉ばかりを磨いて、根っこを枯らしてはいないか?」という痛烈な批判です。

リーダーが「本(理念や誠実さ)」よりも「末(売上や体裁)」を優先すれば、一時的には繁栄するかもしれませんが、やがて組織には歪みが生じ、瓦解へと向かいます。逆に「本」を先に立て、それを徹底して磨き上げれば、成果という「末」は自然と後からついてくる。これが東洋哲学の説く「因果の理」です。

変化の激しい時代には、どうしても目に見える「末」の変化に対応することに意識を奪われがちです。最新の経営理論、AIの導入、競合の動き……。もちろんそれらも「終始」の一部として無視はできませんが、それらに「先んじて」取り組むべきは、常に自らの、そして組織の「本」を固めることです。

「今、自分たちが取り組んでいることは、本なのか末なのか?」「この決断は、順序(先後)を誤っていないか?」この問いを常に持ち続けること。それこそが、リーダーが道(本質的な成功)に近づくための羅針盤となるのです。

編集後記

「変化に対応しよう」と意気込むほど、私たちは自分の外側ばかりを見てしまいます。しかし、今回『大学』の言葉に触れて改めて感じたのは、変化の激しい時ほど、目を向けるべきは「自分の内側」や「組織の根っこ」だということです。

「変わること」は技術ですが、「変えないこと」は哲学です。今日、あなたが一番大切にしたい、組織の「根っこ」は何でしょうか。忙しい日常の隙間で、ふと幹に手を当てるような、そんな静かな内省の時間が、明日への柔軟な一歩に繋がるのかもしれません。


次回予告: 第44回では、「利より義を選ぶリーダー――損得を超えた決断が信頼を生む」をお届けします。短期的な「得」を捨ててでも守るべき「正しさ」とは何か。リーダーの格を決める「義」の精神に迫ります。


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